師走のコンサート

NYはクリスマス一色で街中がキラキラしています。寒さも本格的になって来ました。そんな中、先週末、クィーンズカレッジオーケストラでベートーヴェンの交響曲第9番、第九でお馴染みの音楽史上の大傑作を弾ききってきました。 オーケストラに入って一年、毎週2回のリハ、月2回のコンサートというハイペースで鍛え上げられて来たはずが、断然難しかった。し、なんとも素晴らしい曲でした。一曲が一時間を越えるのでリハも大変。本番前の一週間なんて目が回るくらい大変でした。 ベーシストは当初7人の予定が、新人二人がクビにされるというピリピリとした空気。リハがない日も曲を覚えるためにギグの移動中は常に音源を聴きながら譜面とにらめっこ。名曲というだけあって、メロディーが入って来やすく、一日中第九が脳裏から離れずにうなされる夜もありました。どんなに頑張ったって今の実力では歯が立たないフレーズたち、弾きたいのに身体がついていかないという苛立ちなどいろいろ体感しました。 それにしても曲が凄い。聴けば聴くほど心を揺さぶられる奥が深い音楽でした。 出だしから緊張感でいっぱいで、難しく、それが第二楽章に行くと更に早く難しくなり、初めて聴いたときはこんなの私に弾けるのか?と思いました。 私のお気に入りは第三楽章のスロームーブメントの曲。まるで天国に登っていけてしまうような、せつないけど、ふんわり暖かく、上品で美しく、なんとも言葉では表現しきれないのですが、弾いているといつも涙がこみ上げてきて、恥ずかしいから泣くのを堪えるのが大変でした。 それからあの有名な「喜びの歌」が聴ける第四楽章へ。ベースとチェロがかなり重要な役割をするのでいつになっても緊張が解けません。ここで100数十名のクワイヤー達が初めて加わり、大合唱へ。ベースパートも更に難しくなって、また更に難しくなって行く。私にとっては休む暇がない、全速力で走るマラソンくらいな感じでした。 リハでは一度も最初から最後まで通したことがなかったので、この長丁場のハードワークは想像ができていませんでした。その上、第九の前にブラームスを二曲弾いた後だったので途中頭が朦朧としてきましたが、なんとか完走。感動とともに。 まだベートーヴェンの曲は3曲しか弾いていませんが、どれも素晴らしかったです。特に第九はミュージシャンとして今まで一回も最初から最後まで聴いたことがなかったなんて、勿体無かったな、と思いました。あんな曲がこの世にあったなんて。どうしたらあんな完成度の高いものを創り上げられるんだろう。今回のそんな大作との出逢い、経験、感動が私の人生の宝物になりました。 マエストロの指揮の元、オーケストラもクワイヤーも素晴らしい演奏でした。やっぱりマエストロ・ペレスは偉大です。86歳の高齢で抗がん剤治療をしながら、今学期からは車椅子で助けを借りないと動きが取れなかったおじいちゃんが、自分の定位置に立つと声を張り上げて生徒達を指導します。声は誰よりも大きいし、辛口で厳しいし、全ての音をわかっているし、自分が出したい表現を的確に指示する、そして彼が指揮をすると魔法がかかったかのようにみんなの音に表情がつくのです。ジャズしかやって来なかった私には不思議な体験でした。 今回の第九でオーケストラから離れ、この一年間の貴重な経験を生かしてまた自分の音楽を磨いていこうと思います。 オーケストラのみんな、ありがとう。